(以下輸入元資料)
2011年ドミニク・ローラン来日試飲会&セミナー
セミナー冒頭の挨拶ではまず、大震災による被災を受けた日本に対して触れていたドミニク・ローラン。
「日本には親しい友人も多く、とても心配していた。心からお見舞いを申し上げたい。そしてこの困難な状況の
中、来日することが出来、こうしてお目にかかれたことがとてもうれしい。困難な状況に寄り添うのが真の友人だと思う。」
と話してくれたドミニク。セミナーでは、2008年ヴィンテージの話を
中心に、畑やドメーヌの現在を語ってくれました。
・畑やドメーヌについて
葡萄生産者からワインを購入し、少量で多銘柄を生産
するメゾンラインと並行して、息子のジャンとともに始めたドメーヌも新たに畑を購入し、拡大しています。ドメーヌでは樹齢の高いブドウ樹を有機栽培し、基本的に除梗せず全房発酵をさせています。樽での熟成もメゾンに比べると約半分の10 ヶ月〜12 ヶ月と短めです。それでもワインには十分に熟成感があり、葡萄の持つ深みや細かな特徴が伝わるワインを目指すのがドメーヌのスタイルのようです。彼は語ります。
「私自身は、選果をしないこと、除梗をしないこと、滓引きをしないことがワインのおいしさにつながると確信している。食用の葡萄とワイン醸造用の葡萄は違うということを良く理解していない人間が選果作業をした場合、食用葡萄の判断基準で、ワイン造りにとって素晴らしい葡萄を捨ててしまいかねない。食用葡萄の糖度は8〜9度なのに対し、ワイン用は13〜14度もある。しわしわで、一見腐ったようにも見える、ドライいちじくのような葡萄がワインにするにはとても良いものなのだ。ただしメゾンの場合、収穫時に除梗をする、しないは生産者に委ねている。生産者が除梗してのワイン造りに慣れている場合には、無理に除梗させるよりもメリットがあるからだ。滓引きをしないでワインを造ることはとても難しいし、テクニックが必要だ。リスキーでもある。しかし、私にはかつてワイン造りを教えてくれた生産者から教えられたテクニックがあるので、ボトリングをする時の1回だけ滓引きをするだけだ。
SO2 はボトリングの時にすら使用しない」
ワイン造りをする上で、「必要」だと思われている作業もワインのおいしさを損なうものであれば控える、ブルゴーニュでの昔からの醸造方法の良い部分はかたくなに守りぬくという信念が伝わってきます。「○○をしない」と「しない」ことを積み重ねていくスタイルをドミニク
は「引いて引いて、よりピュアなものが出来る」と表現していました。簡素な美しさを良とする引き算文化の日本にとっては共感できる人が多いのではないでしょうか。
除梗をする、しないの話については、新たにメゾンからリリースされた、ジュヴレ・シャンベルタ
ン・ビオについての話を聞いているときに生じた「除梗をしないほうがおいしいワインにつながると言っていたのになぜビオは除梗するのだろう」と感じたことをドミニクに尋ねた時に答えてくれました。生産者と固い絆で結ばれたドミニクらしいやり方だと思います。滓引きとSO2 添加なしで
どうやったら良質でおいしいワインが造れるかについては、職人かたぎのドミニクにとっては
「門外不出の秘伝!」ということで、残念ながら聞き出せませんでした。
また、実際のところ、メゾンもドメーヌもほぼ有機栽培をしているのに、「ビオを名乗るのはジュヴレ・シャンベルタンだけなのはなぜなのか」という疑問については「ビオマークをつけてOK という許可が出たのがG・シャンベルタンだから」という答えが。食道楽を自負するドミニクにとって、化学薬品は出来るだけ加えないものが望ましく、有機栽培はよりおいしいものを手に入れるための通過点に過ぎないため、ビオマークがボトルに貼られるか否かということには関心がないようです。「マーケティングとしてのビオは不要」だとも話していました。
また、2009年からはドメーヌのラインナップに「クロ・ヴージョ」、「エシェゾー」といった偉大なグランクリュと「クレマン・ド・ブルゴーニュ」が加わることになりました。
・2008年ヴィンテージについて
ドミニク・ローラン曰く、「2008年はブルゴーニュにとって 素晴らしい年」だったとのことです。
もちろん、全ての生産者にとって良い年であったわけではありません。
収穫時期を誤ることなく、完熟した葡萄を摘みとることができたからこその言葉でしょう。雨と冷涼な気候が7 月下旬から9 月の初旬まで続いた2008年は造り手としての手腕が問われるヴィンテージだったのです。
彼によれば、
「2008年は、芽吹きは4月で開花は6月だった。2007年の豊作の年の後は、少し木も休息が必要だったのではないだろうか。春の季節は少し雨が多という印象だったが楽観的に過ごせた。夏の初めも7月14日までは上々の気候だったが、この日を境に雨が延々と続いた。さらに“北風”が吹き出し、長年栽培をしている人々に「1965年の悪夢の再来」と怯えさせた。9月は少し穏やかに始まり、雨は少なくなったものの、寒さが続いた。そんな中、開花から100日目が訪れようとしていた。栽培学上も、文化的にも収穫日を意味する日である。しかし、葡萄はまだ熟してはいなかった。 葡萄内の糖分と豊潤さが欠如している状態だったので、収穫は待たなければならなかった」
「このような状況であった2008年が良い年だと主張できるのは、9月末の日々のお蔭である。9月下旬から乾いた北風が吹き、葡萄の水分が飛び、糖度とフェノールの熟成が進んだからである。10月8日から10日までの3日間で、糖度がなんと1.5度も上昇したのだ」
「2008年ヴィンテージを簡潔に表現すると、9月25日以前に収穫をした者はまずいワインを、9月26日から
10月3日の間の収穫をした者は美味しいワインを、それ以降10月8日の週末までの時期に収穫をした者は
素晴らしいワインを、そして10月10日以降に収穫をした者は最高のワインを手にしたのである。1978年の
ワインのような極上のワインになると確信している。1993年に酷似しており、素晴らしい色合い、熟成感、信
じられないほどのタンニンの豊かさを持っている。クラシックで長期保存の可能なヴィンテージである」
セミナー終了後に試飲商談会も開催され、2008年ヴィンテージのワインが数々テイスティングされていました。年々素晴らしさが増していていることは間違いないのですが、その素晴らしさはパワフル、凝縮感といったイメージよりも、樽使いの極意をさらに洗練させ、優雅さ、しなやかさといった古典的なブルゴーニュのニュアンスが際立ってきたように思います。 |